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~第十六話②~ キラーリ公主の笑顔は冷たい

Author: 倉橋
last update Last Updated: 2025-09-13 20:55:23

「デブリー会長」

 キラーリ公主が「セレネイ・エンター」のデブリー会長を呼び寄せる。デブリー会長がベッドの縁に立つ。

「弟よ。この人に」

 エブリー・スタインが一瞬のうちに異次元倉庫から「ムーン・レインボー」と呼ばれる「幸福の湖」で採取される虹色の宝石を取り出した。宝石の色が気温や天気などの環境に合わせて、赤、オレンジ、黄色、緑、青、藍、紫の七色に変化する。リンゴくらいの大きさの物が一番高価である。

 今、エブリー・スタインの右手のひらにあるのが、すなわちそれであった。

「このような高価なものを」

 デブリー会長が満面に笑みを浮かべる。キラーリ公主も笑っていたが、目の奥には残忍な独裁者の死の宣告が隠れていた。

「受け取って、デブリー会長」

 キラーリ公主がベッドの上に仰向けに横たわる。横目でデブリー会長をじっと見ている。デブリー会長は何度も頭を下げて「ムーン・レインボー」を受け取り、そそくさとスーツのポケットに入れた。

 キラーリ公主は、「ムーン・レインボー」がデブリー会長のポケットに消えるまでずっと目を離さなかった。

 それからおもむろにデブリー会長に告げた。

「これはね。私が銀河連邦の常任理事に選出されるお礼だから」

 デブリー会長が当惑した表情に変わる。

「いいよ、つまみぐいくらい。私、何も言わない。不正かもしれないけれど、それくらいは見て見ぬふりしたって構わない仕事を、あなたはしてくれたんだから」

 デブリー会長の顔が、一瞬のうちに死人のようになった。体が大きく左右に震えている。

 追い打ちをかけるかのように、キラーリ公主の体が宙を舞った。一瞬の後に再びベッドの上に戻ったとき、仁王立ちの姿でデブリー会長を見据えていた。

 パープルに輝く詰襟の軍服に、太腿を全てさらけだすショートパンツ。ホワイトのハイソックスにパープルカラーのショートブーツ。

 たった今、キラーリ公主の瞳は、まさしく獲物をどう料理するか悩む蛇のように、ダーク・レッドの血の色に輝いていた。

 そして自分の身長くらいある長い剣を構えていた。

「お前は私を銀河連邦の常任理事にしなければならない」

 キラーリ公主の冷たく鋭い声が響き渡った。剣先がデブリー会長の喉元に突き付けられる。

「私は常任理事になるのだ。いいか、もう一度言う。私は常任理事になるのだ。分かったな」

 デブリー会長は、あふれ出る涙と
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  • ~スーパー・ラバット~ムーン・ラット・キッスはあなたに夢中   ~第十五話④~ タイガーの咆哮

     駅前の商店街。一本奥に入ると、人通りはあまりない。小さな八百屋や雑貨店、理髪店、スナックが並んでいる。シャッターが下りたままの店もある。 駅前の一本奥の通りを、タイガーを連れた村雨春樹がゆっくりと歩いていく。 虎と同じように毛を縦縞に染められたウルフ・ハイブリッド。「狂犬」の異名を持つ恐ろしい犬だ。 そして春樹を囲むように弟の龍や宇野、松下ら六人の取り巻きが従っている。全員私服姿である。 春樹の左手に小さな八百屋があった。店の外に台が置かれ、夏みかんや八朔、バナナの盛られたザルが並べられている。「本日の特価 どれも三百円 美味しい果物ですよ」とカードが立てかけてある。 この近くだと大型ショッピングセンター「ハピー駅前店」はあるものの、車のない高齢者などは歩いて買い物にはいけない。 子どもが小さくてわざわざ車で買い物に行けない人もいる。町の片隅に今も残る心のこもったお店である。 突然、タイガーがうなり声をあげた。春樹がリードを放す。 春樹が冷たい笑いを浮かべる目の前で、タイガーは台に盛られた果物をひっくり返した。八朔や夏みかんが、バナナが道路に散乱する。龍や宇野、松下たちが落ちた果物を足で踏みつぶした。 八百屋の店長があわてて飛び出してくる。「君たち、何をしているんだ」 四十代後半のよく日に焼けた店長が、平気で果物を踏みつぶしている龍たちを見回す。八朔や夏みかんの汁が道路を濡らす。バナナが真っ黒になって無惨につぶれている。「ここにゴミ箱があったから、ゴミをキレイにしていただけですよ」 春樹が店長に嘲りの表情を見せた。店長が眉をひそめる。「君たち、どこの高校だ。食べ物にそんなことをするなんて、許されないことだよ」 鈴木が首を横に振る。「どこに食べ物があるんですか? みんなゴミですよ」 鈴木のそばで龍たちも声をあげる。「ジジイ、認知症か?」「汚い店だな。火でもつけた方がいいんじゃないか?」「ゴミ屋敷の親父!」 店長がたまりかねたように大声で叫ぶ。「いい加減にしないか。反省しないなら警察を呼ぶよ」 店長だって、「警察」とか、こんな言葉は叫びたくはないが、あまりの態度の悪さに苦渋の選択をしたようだ。 だが今日の春樹は、「警察」の言葉にも平然としている。「呼んだらどうですか? 知ってますか? オレは大手流通企業の『ハピー

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